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基本慶次受ばっか。

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大河風林火山の勘助とその仲間達のお話です。
..... 勘助と、その仲間たち



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勘助と、その仲間たち




久方ぶりに館の主が帰ってきた。
それを大喜びした太吉は、その武勇伝を聞きたいと強請り、主人を庭先に連れ自分の娘に茶を命じ、二人揃って縁へと腰を下ろした。
最初は渋々と言った様子だった勘助も、次第に語る手に力が入り、その時のことを思い出し興奮してきたのか、遠い空を見上げながら熱く語りだした。
諏訪の姫君のこと。
その若君・四郎のこと。
上杉に囚われていたときのことや甲斐に戻って御館様に最初に頂いた言葉など。
本当に嬉しそうに話す勘助に、太吉も頬を赤く染め、まるで自分のことのように頷きながら聞き入っていた。
話に一段落が着き、ふと前を見ると息子の茂吉が、頼りなさ下に槍を前に付きだしているのが見える。
「こりゃ!!もっと腰入れるずらよ!!」
そう怒鳴ると「分かってるずら!」と少し拗ねたような口ぶりをしながらも、腰をぐっと屈め、掛け声を更に大きくして槍を突き出す。
それにうんうんと頷きながら、そういえばと思い出したことを勘助に告げようとして、横を向いて、太吉は首を傾げた。
「旦那さま?」
それに答えるように首はこくりこくりと動くが、実際そうでないことをすぐ隣にいる太吉は感じ取った。
目を瞑り、腕を組み、こくりと動かす頭は次第に大きくなり。
「旦那さま、だん」
そう言って肩を揺すった途端、勘助が太吉に向かって倒れ込んできた。
事前に湯飲みを後に除けていて本当に良かった、と太吉は心から思う(そうでなければどれだけ大惨事になっていたか。湯のみからはまだ暖かい湯気がほこほこと立ち込めていた)
「旦那さま。こんげところで寝ちまっちゃあ風邪ひくずらよ。あっちで床の用意するずら」
そう言うが一向に起きる様子はない。
そう言えば、諏訪からここまで共も付けずに帰ってきたと言っていた気がする。
しかも帰ってきたのは明朝だったはず。
そのまま御館様が起きるまで待ち、報告を終え、すぐにここに来たと言っていた。
「仕方ないずら」
溜め息を吐くその口元に笑みを浮かべ、太吉はゆっくりと勘助の身体を板の上に下ろした。
余程疲れていたのか、そのゆっくりとした動作の間も、勘助は起きる様子が全くなかった。



「・・・・・・何やってるずらこの馬鹿親父は」


罵声が飛ばなくなって一刻。
ようやく自分を認めて貰えたのか、それより何より旦那さまがどんな顔で自分を見てるのかが見たくて横を振り向いてみると、その姿が二人揃って横に倒れているのが見えた。
まさか毒でも盛られたのでは、手にしていた槍を投げ捨て、勘助の身体に手を置き、茂吉は安堵の溜め息を吐いた。
呼吸は規則正しく、上下に動いている。
ほっと息を付き、その隣を見て茂吉は別の意味で溜め息を口から漏らした。
暫く勘助と、だらしなく涎を口の端から流している自分の父親とを見比べ、茂吉は思い立ったように縁側へと膝を付き、勘助と太吉の間に手を置いた。
そしてそのまま太吉の身体をぐいぐいと勘助とは反対の方へと追いやり、その間に人一人が悠に入れる隙間を作ると、いい笑顔で汗を拭い、その場に横になった。
目の前には、安心しきったように眠る、自分が仕えるべき主人が。
滅多にない間近で見れる顔が嬉しくて、茂吉はそのまま目を瞑った。




「・・・・・・何事が起こったのじゃこれは・・・」



越後の動向を探りに出していた葉月が戻ってきて、良い品が手に入ったのでとついでに差し出された滅多に手に入らない清酒を引っ提げ。
裏門をくぐって一番最初に飛び込んだ光景に、幸隆は苦笑を漏らした。
越後の酒などそうそう手に入る物ではない。しばらくちびちびと飲むかと考えていたが、勘助が甲斐に来ているという話を聞き付け、ならば勘助の話を肴に杯を酌み交わそうかと足を運んでみたのだが。

「本当に、お主はよい家来に恵まれておるのう・・・」

くくく、とどうしても漏れてしまう笑いを抑えきれず、それでもどうにか音を抑えようと袖を口に当て、必死に笑いを耐える。
自分の腕を枕にし、足を外に投げ出し横向きに寝ている勘助。
その正面で、まるでその身を守るかのように勘助の頭を抱えるように寝る、自称一の家来の、長男。
その背中には何やら良い夢でも見ているのかにまにまと涎を垂らしながら大の字になっている自称一の家来。
勘助の背中にくっつくように服を握り締め寝ている末子と、またそれを抱えるように眠る末娘がいた。
「これでは儂が入る隙間がないではないか」
まだ治まらない笑いを漏らしつつ、幸隆はわらじを脱いで縁側へと上がり込む。
そしてそのまま勘助の上へと回り込むと、そこにどかりと腰を下ろした。
前を見遣れば、いつか勘助が自慢していた紅々と燃える紅葉が、いい色付きをしていた。
自分は滅多にここにいないが、たまに帰るといつも床は綺麗に噴き上げられ、庭は四季彩りの良い色をしている。不甲斐ない主人であるのに、本当に有り難いことです、とはにかんだ笑顔で話してくれたのを思い出す。
しかし実際それを目にして、確かにこれは、自慢の一つもしてみたくなるやもしれないな、と幸隆は一人呟いた。

「本当に、良い家来を持ったな」

風に揺られてふわふわと踊る髪を指で梳き、端の方に置かれていた湯呑みの横に、手にしていた徳利を下ろした。



さて、起きたらどんな風にからかってやろうかな。


起きたときの様子を思い浮かべ、幸隆は目の前に広がる光景にくつくつとまた笑った。



湯呑みの中身は、とうに冷え切っていた。