basara 基本慶次受ばっか。
政宗×
幸村×
佐助×
その他
大河風林火山の勘助とその仲間達のお話です。
..... 勘助と、その仲間たち
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狂気 とすり、と先程から何度となしに戸を叩くが、中からは一向に足音どころか人の気配さえ感じないと幸村は首を傾げた。 この京の都に足を入れて最早3日目。 この扉の前に立つのも、今回を含め15回を数える。 「・・・またどこぞへふらりと行ってしまわれたか・・・」 季節を追い掛けては放浪を楽しむ慶次のこと、また何か楽しげな物でも見付けて旅にでも出たかと思ったが、街で見掛けた見知った面々を思いだして、それはないと唯一有りそうな考えを否定した。 慶次が何処かへ行くというのならば彼が大好きだと謳う花組の者達が、それを放っておくはずがない。 どんなことがあろうとも慶次を追い掛け、必ずその後ろに立つであろう。 だが、その彼らも今は京の街でそれぞれの生活を楽しんでいた様子だった。 「・・・・・・となれば・・・」 もしかすると、彼の叔父である前田利家に、加賀へと連れ戻されたか。 「Ah〜?てめぇ、人ンちの前で何やってんだ」 突然後ろから声を掛けられ、幸村はハッと後ろを振り向いた。 ついでに聞き覚えのあるその声にまるで条件反射のように、手が自然と腰に掲げた二槍に掛かる。 だが相手の顔を見るよりも早く、何かでその手を叩かれ、腰に掛けていた槍がカシャンと音を立てて地面へと落ちた。 「・・・・・・・・・伊達、政宗・・・」 「よぉ、随分久しぶりじゃねぇか真田幸村。まさかテメェとこんなトコで会うとはなあ・・・」 「それはこちらの台詞よ。貴殿、ここに何しに参った」 「お前にゃ関係ねぇよ。邪魔だ。退け」 まるで命令でもするかのようなその口振りに、顔を見たときから高ぶっていた炎が更に燃えたぎったように感じた。 政宗が一歩踏み出すより早く、下に落ちている槍に手を掛ける。 が、やはり相手の方がそれよりも早かった。 手にしていた刀で槍を二本とも弾き、そのまま幸村の首筋にひたりと刀を向ける。 さすがに本体は鞘に納まったままであったが、その気になればいつでもその刀身を拝めるぞ、とでも言いたげに、政宗がにたりと笑った。 「邪魔すんな。俺はここに用があって来ただけだ」 「・・・・・・残念だが慶次殿はご在宅ではない。帰られよ」 「お前の命令なんぞ誰が聞くか」 吐き捨てるように言葉を投げ掛け、幸村の首から刀を離し腰に納め直すと、幸村の言葉を無視し、政宗は構わず戸に手を掛けた。 「な、慶次殿は留守だと言うておろう!お主は無断で他人の住まいに足を踏み入れられるおつもりか!」 慌てて政宗の肩に手を掛けるが、それすらも払い除けられ、おまけにジロリと鋭い眼光で睨まれた。 「俺に同じ言葉を何度も言わせんじゃねぇ。邪魔するな。これ以上やるなら」 「ほう、やられるおつもりか。だがこちらもその方が都合がよい。今の今まで着かなかった勝負、今ここで決着させるか」 主たる得物はないとは言え、幸村も武将の一人。 槍とは別にいつも身に付けている、脇差しがそこにあった。 勝手は違うがやり合うには充分の筈。 幸村は政宗から目を離すことなく見据え、脇差しに手を掛ける。 が、今度こそ呆れたと言うような政宗の溜め息に、一瞬気が削がれた。 「いい加減にしろ。そんな慣れもしねぇモンで俺とやり合って勝てるとでも思うのか?大体考えてもみろ、ここで俺たちがやりあったら、ここは跡形もなく吹っ飛ぶだろうなぁ」 その言葉に、幸村はハッとした。 確かに、こんな狭い、しかも門前などでお互いが刀を向け合えば、被害は慶次の借家だけで済むはずもない。 下手をすればここいら一帯の民家を薙ぎ払うことになるかもしれない。 政宗はそんな幸村に「分かったか」とだけ告げ、戸惑いもなく扉を開けて中に入った。 「な、待たれよ正宗殿!!慶次殿は」 「ここに姿がないのは了解済みよ。大体俺は、その宿主様のお遣いでここまで来てやってんだからな」 「・・・・・・・・・は?」 「あの野郎、この奥州の筆頭を使うなんざいい度胸してやがる。まぁ、仕方がないけどよ」 ぶつぶつと文句を垂れながらも、足を止めることなくその姿は中へと消えていった。 一瞬呆けていた幸村は我に返り、慌ててその後ろを追いかける。 借り家とは言え、慶次の部屋はさすがに広い。 屋敷とまでは行かなくても、普通の家に比べても、部屋の個数は一つ二つではない。 そのいくつかの襖を開け、やっと追い掛けた後ろ姿を見付けたときには、幸村は思わず唖然と口を開けてしまった。 床に散らばっているのは数え切れないほどの書物の数。 それはあとからあとから積み上げられ、既にいくつかの山を作っていた。 まさか、いくら慶次とは言え最初からここまで散らかしているハズなどない。 とすれば、その原因は先程からその山を更に高く積み上げている、張本人。 さらさらと簡単に書かれた文字と書物の題名を見比べ、これでもねぇと更に後ろに投げ捨てる。 「政宗殿、いくら慶次殿の遣いとは言え他人の屋敷を荒らすのもどうかと思われるが・・・」 「An?細かいことは気にすんな。それもあいつは知っているさ。それでもいいから取って来いっつったんだからいいだろこれぐらい」 その口振りに、先程から気になっていた謎が少しだけ明確になった。 「・・・・・・政宗殿は、慶次殿が何処に居られるか御存知なのですか」 「Ah〜?御存知も何も、あいつは今俺んとこにいるぞ。ちょっとばかし怪我しちまってな。青葉の城で療養中だ」 「怪我・・・ですか?」 「ああ。腱を切った。それも派手にな」 「な・・・っ!!」 慶次が何処にいるのか分かり笑み掛けた顔が、一瞬にして変わった。 腱を、切ったのだという。 あの、楽しそうにまるで舞いを踊るかのように、駆け回るあの足が、潰れたというのだろうか。 「まさか、慶次殿ほどの方が!何か戦にでも巻き込まれたのですか!」 「いや」 紙と書物を見比べていた顔が、ゆっくりと上がった。 その顔は何故か、何処か楽しそうに。 「俺が切った」 歪んでいた。 「な・・・・・・っ!!!」 幸村は、今度こそ言葉を失った。 「あいつをヤッてる時に切ってやった。痛みと快感を同時に感じてるときのアイツは、何ともいえない色気があってかなりキタぜ」 お前にも見せてやりたかったよ、と言い捨て、恐らく目的の物を見付けたのだろう、一冊の書物を手にして擦れ違い様に幸村の頭をぺちりと叩く。 「・・・・・・待たれよ。何故、そのようなことを・・・」 「決まってんじゃねぇか。放って置いたらアイツは何処まででも飛んでいっちまう。 折角会いに来たってのに、3日と持たずに姿を消しやがる。アレをこの手に留めておくには、どうすればいいと思う?」 「......某には、想像もつかぬ・・・・・・」 目を閉じれば目蓋の奥に浮かぶのは、風のように、花びらのように楽しく舞い咲く慶次の姿。 そもそも、幸村にはそれを掴み取ろうと言う思考すら思い浮かばなかった。 辿々しくそれを口にすれば、政宗は「やれやれ」と大袈裟に両手を開く。 「これだからChildは思索がたんねぇって言われるんだよ。簡単なことだろ?」 「・・・と、申されますと・・・」 「何処にも行けなくすればいいだけのことだ」 まるで当然とでも言いたげに、そう語る政宗の顔があまりにも楽しげだったので。 幸村は、思考が働くよりまず、身体が動いていた。 気が付けば、政宗の着流しの肩口を掴み、そのままの勢いで壁に押し付ける。 かなりの力を籠めたはずなのだが、政宗はまるでそれすら予想していたかのように眉一つ動かさずに、笑んでいた。 「お主は・・・お主は、ただ自分の欲の為だけに慶次殿の自由に舞う翼を手折られたというのか・・・っ!」 「Ah〜?んなこた決まってんだろ。今更聞くなよ」 「貴様は・・・っ!」 「しかもあいつをヤったのはこの俺だ。責を取るのは当たり前だろ?」 動けず甘えてくるアイツは可愛いんだぜ?と口に出せば、肩を掴む力が一層ギリギリと締まった。 「退け。慶次が待ってる」 「き・・・さまぁ・・・まだそのようなことをぬけぬけと・・・!」 「誰も部屋に入るなと言ってんだ。俺が帰らなきゃ、誰がアイツの世話をするんだろうなぁ?」 にやりと笑うその顔に、幸村は堪らず政宗の身体をもう一度強く壁に叩き付け、ゆるゆると手を落とした。 「ったく、派手にやってくれる。見ろよ赤くなっちまったじゃねーか。後で痣にでもなったらどうしてくれるよ?」 「・・・薬師にでも見て貰えば、よかろう・・・」 「Ha!さっきまでの勢いはどうした?真田幸村」 嬉しそうなその声が、癪に障る。 勝ち誇ったような笑みが、胸の辺りを赤黒く滾らせる。 自分がどれだけ望もうと手に入れることが出来なかったあの愛しい姿を、目の前の男は狂気にも似た欲望でいともあっさりと手にしていた。 出来ることなら今この場でその首を切ってしまいたいが、しかし今は。 「・・・・・・早く帰られよ。慶次殿が、待っておられるのであろう・・・」 「Ah〜、そういやそうだったな。そんじゃ・・・あぁ、オイ」 言われ、幸村は肩越しに顔だけを振り向けば、政宗はさも嬉しそうに書物をひらひらと振る。 「アイツの見舞いに来たきゃ、いつでも歓迎するぜ。アイツもさぞや喜ぶだろうしなぁ。ただし」 「何でござるか」 「俺からアレを奪おうなんざ間違っても思うんじゃねぇぞ。その時は、アレが失うのは、足だけじゃねえと思いな」 そう告げる政宗の顔は、それこそ正しく、狂気そのもので。 政宗の掛け声と共に馬の蹄の音が響き、そのまま遠ざかっていくのを耳にしながら。 幸村は、血が滲むほど拳を握り締めていた。 |